COLUMN

ミルクのおいしさは土づくりから始まっている!?
飲みごごちと生乳本来の風味を両立させた「のぼりべつ牛乳」

おいしさの決め手は、
ミルクにあり

「大地のアイス」について語るならば、まずはこの食材から。そう、フレーバーによっては原材料の50%以上を占める牛乳です!アイスの基礎をつくるものだからこそ、選びに選び抜きたい。そんな思いでたどり着いたのは、グラスフェッドミルク※でつくった「のぼりべつ牛乳」でした。※ 餌の多くを牧草で育てた牛から搾ったミルク

のぼりべつ牛乳は、さっぱりとした飲みごごちでありながら、コクも感じられるのが特徴。ミルク本来のふくよかな風味と爽やかさが両立したこの牛乳は、いったいどこでどんなふうに生まれているだろう?どうしても知りたい…!!ということで、その秘密を探るべく、のぼりべつ牛乳の原料となる“生乳”を生産している牧場を訪ねてみることに。

のぼりべつ牛乳は北海道登別(のぼりべつ)市と室蘭(むろらん)市にある11戸の牧場の生乳を使って製造されているという情報をゲットし、今回はそのうちの1戸である内村牧場にお邪魔しました。

穏やかな空気感がステキな鈴木雄大さん。内村牧場は市街から少し離れた、坂の上にあります。この坂は室蘭市発祥の地とされていて、アイヌ語で「急な坂」を意味する「モルエラ」が由来になっているそう。

ふと気がついたのは、牧場に到着してから全く嫌な匂いがしないこと。そして、牛たちが大人しく、とても人懐こい。牛たちの気性は普段からの人の接し方によって変わると言われていますが、内村牧場の牛たちは見知らぬ私たちが訪れても、ウェルカム体制。鈴木さんが近くにやってくるのを察知して、擦り寄ってきます。

出迎えてくれたのは牧場の2代目・鈴木雄大(たけひろ)さん。2020年に祖父・内村俊彦さんが営む牧場に就農した、若き酪農家です。

牧場を案内されて最初に驚いたのは景色の良さ!!牧草地を登っていくと眼下には太平洋が広がり、後ろを振り返れば北海道を代表する山々がそびえ立つ、なんとも風光明媚な場所です。草地の一角にあるパドック(運動場)には、牛たちが思い思いにのんびりしている様子も見られます。う〜ん、ナイスビュー!

「海の向こうに見えるのは駒ヶ岳、あっちは有珠山と昭和新山です。今日は羊蹄山も綺麗に見えてラッキーですね」と鈴木さん。目の前に広がるのは太平洋。

ふと気がついたのは、牧場に到着してから全く嫌な匂いがしないこと。そして、牛たちが大人しく、とても人懐こい。牛たちの気性は普段からの人の接し方によって変わると言われていますが、内村牧場の牛たちは見知らぬ私たちが訪れても、ウェルカム体制。鈴木さんが近くにやってくるのを察知して、擦り寄ってきます。

土・草・牛。
全部がつながっている

牛たちとの良い関係性が築かれている様子が伝わってきたところで早速、のぼりべつ牛乳のおいしさの秘密について聞いてみました。

キレイに掃除された牛舎。鈴木さんに似て(?)牛たちのなんと穏やかなこと!

「こだわっているのは、やっぱり草づくりですね」と鈴木さんはきっぱり。「美味しい生乳を出してもらうためには、牛が健康でなくてはダメなんです。人間と同じように、ごはんをしっかり食べてエネルギーを補給しなければ体調を崩しますし、病気にもなります。そうすると生乳自体の成分が悪くなって、おいしい生乳を安定して搾ることができません。だから牛が喜んで食べたくなるような草作りが大切なんです」と説明します。

なるほど。のぼりべつ牛乳のおいしさは、草づくりから始まっている。深い…。ところで、牛が喜んで食べる牧草って、どんな牧草なのでしょうか。

「柔らかくて、栄養価も高い状態の牧草ですね。長く伸びた牧草は見た目的には立派ですが、固かったり、栄養価が落ちたりするので牛はあまり食べません。ですから刈り遅れないことを意識しつつ、雨に当たってカビたりしないようにお天気の日を狙って作業します。地域の牧場の中では、うちの草刈り時期は早い方だと思います」

牛舎の外に出て運動する牛たち。牧草地にはオーチャードやチモシーなど複数種が育っています。栄養バランスや胃の中の微生物の働きを活性化させる観点からも、複数種の牧草があるのが良いそう。

牛舎も覗かせてもらいましたが、思ったより飼っている頭数が少ないような気がします。これには何か理由があるでしょうか。

「うちでは全部で40頭、そのうち搾乳する頭数は常時20頭ほどです。意外と少ないと思うかもしれませんが、土地の広さに見合っていない頭数を飼うと堆肥(牛のふん)が増えて養分過多になり、土壌に悪い影響を及ぼします。そうすると草にも影響が出るし、ひいては牛にも影響が出てしまいますよね」と鈴木さん。なんと、おいしい牛乳をつくるためには土のことから考えないといけないというわけですね。…深い。

キレイに掃除された牛舎。鈴木さんに似て(?)牛たちのなんと穏やかなこと!

牛舎の外に出て運動する牛たち。牧草地にはオーチャードやチモシーなど複数種が育っています。栄養バランスや胃の中の微生物の働きを活性化させる観点からも、複数種の牧草があるのが良いそう。

人の口に入るものだから、安全なものを作りたい。そんな思いを持って酪農を続けてきた内村牧場の皆さん。鈴木さん自身も先代からの思いを受け継ぎ、試行錯誤の中でおいしい生乳づくりに現在進行形で取り組んでいます。

例えば1日に必要な栄養(餌)を1度に与えると体調を崩しやすくなるため、手間はかかっても5回に分けて餌を与えるなど、牛が健康でいてくれるための細やかな気配りも欠かしません。牛舎や牧場周辺を清潔にすること、牛のストレスをいかに減らすかなど「自分の工夫や手の掛け方次第で、牛がどんどん良くなる姿が見えるのがやりがいにつながっているんですよね」と鈴木さんは微笑みます。

グラスフェッドと一言で表しても、牧草の種類や育て方、餌を与える回数や普段の飼育環境など牧場それぞれに考え方やこだわりがあることを教えてくれました。

開発まで1年!
独自の製法を開発

のぼりべつ牛乳がおいしい理由は「土・草・牛づくり」にあり。ということが分かったところで、もう一つの疑問が。生乳を牛乳にするまでの“加工”って、どうしているのだろう?何かおいしさをキープする秘密があるのではなかろうか…。
この疑問を解決すべく、のぼりべつ牛乳を製造している「のぼりべつ酪農館」の三浦学さんにお話を聞きに行きました。

のぼりべつ酪農館は、北海道登別市郊外の札内エリアにあります。工場は1998年に廃校となった札内小中学校の跡地を工場として活用しているそう。

のぼりべつ酪農館の三浦さん。フランスで本格的にチーズ製造を学び、現地の酪農家で働いた経験をもとに、地域の独自性・多様性のある牛乳・乳製品づくりに取り組んでいます。目指すは、日本一の牛乳!です。

「生乳のポテンシャルを引き出せるかどうかは、温度と圧力、時間に左右されます。同じ生乳を使っていても、加工次第でおいしさが変わってくるんです」と三浦さんは断言します。

殺菌方法には温度と時間に幅がさまざまありますが、地域の生乳の特徴を最大限生かすためには65度30分の低温殺菌法がベストだと判断。何度も試作を重ね、完成までに1年ほどの時間がかかったそうです。

「国内で流通する牛乳の多くは、超高温瞬間殺菌法(120〜150度で1〜3秒加熱)が採用されています。この方法は短時間でたくさんの生乳を加工できる一方、加熱臭(こげ味)が生まれる原因にもつながります。酪農家の皆さんがせっかくこだわって生乳を搾っているのだから、そのおいしさを精一杯伝えたい。そんな思いで牛乳づくりに挑みました」

殺菌方法には温度と時間に幅がさまざまありますが、地域の生乳の特徴を最大限生かすためには65度30分の低温殺菌法がベストだと判断。何度も試作を重ね、完成までに1年ほどの時間がかかったそうです。

もう一つのポイントは、飲みごごち。一般的に牛乳の口当たりの良さを生み出すためには、圧力をかけて生乳中の脂肪球をバラバラにする「ホモジナイズ(均質化)」という加工を施しますが、反面、生乳本来が持つクリーミーな香りも変化してしまいます。香りを引き立てつつ、口当たりの良さを生み出す方法はないものか…と悩みたどり着いたのが独自に開発した「ファインクリーミー製法」でした。

「企業秘密なので詳しくはお伝えできないのですが、この製法が確立したことで同じ低温殺菌牛乳であっても一味違った牛乳になっています。のぼりべつ牛乳は地元の学校給食でも提供されていますが、“牛乳嫌いの子供たちが飲めるようになった牛乳”として地域でも評価が高いんですよ」と三浦さん目を細めます。

酪農家になりたかったから、
最後までこだわる

「時間や手間がかる時代と逆らうような方法であっても、おいしい牛乳・乳製品を作っていきたい」と胸のうちを語る三浦さん。ここまでの思いを持って牛乳・乳製品づくりに臨むのは、三浦さん自身も酪農家を目指していたからだそう。子どもの頃から親戚の家の側にある牧場で作業を手伝っていたのがきっかけとなり、酪農を専門的に学べる大学へ進学。これからの酪農は、生産と乳製品づくりがワンセットになるだろうと考え乳製品づくりを学びました。

「のぼりべつ酪農館に生乳を出荷してくれている酪農家の皆さんは、いかに自分たちの土地で牧草を育て、牛を育てるか。経済的にも牛の健康にとっても、それが一番良いことが経験上分かっていらっしゃる。十勝や道東のように広い土地には恵まれていない分、牧草づくりの技術はトップクラスじゃないでしょうか」と三浦さん。

フランスに赴き、本格的なチーズ製造と現地の酪農を学んだことも三浦さんの原点。酪農業が本来持っているはずの多様性や独自性、酪農家自身がおいしい生乳をつくるための技術を語り、実践していることに感銘を受けたそう。

「のぼりべつ酪農館に生乳を出荷してくれている酪農家の皆さんは、いかに自分たちの土地で牧草を育て、牛を育てるか。経済的にも牛の健康にとっても、それが一番良いことが経験上分かっていらっしゃる。十勝や道東のように広い土地には恵まれていない分、牧草づくりの技術はトップクラスじゃないでしょうか」と三浦さん。

特にこの地域の牧場は、現代で主流になったサイレージ(牧草を発酵させて保存力を高める方法)ではなく、昔ながらの乾草(水分量を減らして保存する方法)を牛に与えていることがプラスに働いているのだとか。生乳中に余計な菌を入り込ませないことが、香りや味の変化を防いでいる理由の一つにもなっていると牛乳・乳製品づくりのプロの視点から教えてくれました。

ミルクのおいしさは土から始まっている。そして、原料となる生乳の品質と加工技術、どちらがかけてもおいしい牛乳はできない。 のぼりべつ牛乳のおいしさの秘密には、深い深〜い理由がありました。 皆さんのこだわりが詰まった牛乳でつくる「大地のアイス」。ぜひ、お試しください。

フランスに赴き、本格的なチーズ製造と現地の酪農を学んだことも三浦さんの原点。酪農業が本来持っているはずの多様性や独自性、酪農家自身がおいしい生乳をつくるための技術を語り、実践していることに感銘を受けたそう。

(取材・文/ ライター 長谷川みちる)

コラム一覧