COLUMN

変幻自在・自由自在!
スイーツにもマッチする不思議
自然の旨味を抱きしめた
「稲葉ファームのじゃがいも」

農家さんもびっくり!?
アイスに合うじゃがいも探し

北海道の野菜をイメージすると、真っ先に思い浮かぶのは生産量日本一の“じゃがいも”ではないでしょうか。じゃがバターにポテトチップス、フライドポテト、ポテトサラダ、肉じゃが、コロッケ、いももち、ポタージュスープ…。挙げればキリがないほど、どんなお料理にもマッチする優秀食材です。「大地のアイス」は、変幻自在・自由自在のじゃがいもをフレーバーの一つにチョイス。北海道らしさあふれる、新感覚のアイスを作りました!

品種の選定と生産にご協力いただいているのは、北海道岩見沢(いわみざわ)市の稲葉ファームさんです。少量多品目で100品種以上の作物を育てており、じゃがいもだけでも18種類を栽培しています。その中から大地のアイス用に選んでいただいたのは、「アンデスレッド」「タワラアルタイル彦星」「グラウンドペチカ」の3種。選ばれし精鋭たちには、どんな特徴があるのか!?3代目の稲葉勇人さんに聞きました。

じゃがいも料理が大好きで、さまざまな品種を育ててきた稲葉さん。じゃがいもをアイスにしたいというオーダーには、さすがに驚いたそう(笑)

「アンデスレッドは火の通りが早くてホクホク感がありますが、クリームのような滑らかな舌触りと甘みも感じられます。タワラアルタイル彦星はサツマイモに似た風味があり、煮崩れしにくくてホクホク。グラウンドペチカもサツマイモや栗のようなコクが特徴で、ホクホクしていますね。どの品種もじゃがいも特有のアクや芋くささが少ないので、スイーツにも合うと思いますよ」

じゃがいも料理が大好きで、さまざまな品種を育ててきた稲葉さん。じゃがいもをアイスにしたいというオーダーには、さすがに驚いたそう(笑)

実際のアイスを食べてみると、生クリームのコクとは異なる独特な濃厚さと甘味が。野菜からこんなに甘味が生まれるのか!という驚きがあります。そして、鼻から抜けるほのかなじゃがいもの香り。マッシュポテトを想起させる、舌触りとなめらかさが特徴です。なるほど、スイーツとして成立している…!!

自然のまま、あるがまま。
自分の土地で完結させる農業

稲葉さんの畑では肥料や堆肥、農薬を使わず、作物の種は基本的に自家採種する「自然栽培」という方法を採用しています。一口に自然栽培と言っても、農家それぞれに独自の考え方があるらしいのですが、稲葉さん流の自然栽培にはどんなこだわりがあるのでしょうか。

「肥料や堆肥のほかに、自分の土地以外の場所で作られた腐葉土(落葉や小枝が堆積して腐植したもの)も使いません。また、化学的な農薬はもちろんですが“農薬の代わりになる物”も使いません。畑の外のものを持ち込まず、自分の畑の中で循環させることがこだわりかな」と稲葉さん。

例えば、病害虫予防のために利用されている木酢液(植物原料を炭化する際に発生する煙の成分を冷却すると得られる水溶液)のように自然由来のものであっても、農薬としての目的があれば使用しません。除草に関してもケミカルなものは使わずに、機械や手で物理的に取り除くそう。また、種や苗は購入するのが一般的ですが、これらも極力、自家採種して畑の中で物事を完結させているのだとか。

“チーム大地のアイス”メンバーの家族が集まり、アイス用のじゃがいもの定植や収穫を行っています。種いもを並べ、踏んで土に埋める作業を一通り終えたら、子どもたちはカエルやバッタとの追いかけっこに無我夢中に!

自然栽培を手掛けている人の中には不耕起(土を耕さない)にこだわる人もいますが、稲葉さんは作物が育つ条件が揃えば良いとの考えから土は耕しているそう。

「野山を見ていると、誰かが肥料を与えたりしなくても植物はよく育っていますよね。畑であっても同じことが言えるのではないか…という考え方の下で始まったのが自然農法と言われています。その土地のものを食べて生活することの良さを教えてくれる“身土不二(しんどふじ)”という言葉がありますが、それに考え方が近いんじゃないかな。つまりその土地で作れる作物を、無理なく作ることが大切だと思うんですよね」と説明します。

唯一食べることができたのは、
実家のお米だった

稲葉ファームが岩見沢市で農業を始めたのは、昭和42年。それまではお隣の新十津川(しんとつかわ)町で稲作を営んでいましたが、その当時から稲葉さんのお父さんが自然栽培を試みていたそうです。一方で、実家の農業を手伝いながらも、保険業を仕事としていた稲葉さんが就農したのは40歳の頃でした。

「職業として農業を本格的にやろうと決めたのは、子どもがアレルギーを発症したことがきっかけでした。食事療法の専門医の指導の下で原因を精査していったところ、米、麦、油などに反応することが分かりました。それだけでなく野菜は一般的な肥料や農薬を使ったものはダメでしたし、アレルギーを発症しにくいと言われている“ゆきひかり”という品種の米も厳しかった。ところが、実家で作っていた自然栽培の米だけは食べることができたんです」

以来、農業を生業として、一から自然栽培の原理原則について学び直した稲葉さん。同じ農法を続けている先輩たちにも話を聞き、実家の畑の栽培方法を見直し、自分として取り組むべきことを再考して畑の改善を続けてきました。

「勘所を掴むまでは苦労しましたね。10年くらいかけて、だんだんと分かってきた感じかな…。農業ってすごく観察が必要なんですよ。好きな作物はよく観察するから知識や技術、勘所もつかみやすいような気がします。私は自分が食べてみたい!と思う野菜を増やしながら、楽しむことも忘れず、試行錯誤を続けてきました。ですが、お天気が読めない年は暑さに強い作物と寒さに強い作物をバランスよく育てることも必要になりますし、一つ一つの判断がとても難しいと今でも思いますね」

岩見沢市は道内屈指の豪雪地帯。除雪は大変ですが、雪どけ水が土壌の清浄化を促すメリットもあるそう。

お天気の変化も、場所場所によって異なる土壌の性質も、作物たちの個性も。理解し、答えに近づくには気の遠くなるようなトライの連続だったはず。そして、量や質を安定的に確保するために考案されてきた肥料や農薬を使わずに作物を育てるためには、一体どれだけの時間、自然との対話を繰り返してきたのでしょうか。

自分らしい作物ができる喜び

「舌が敏感な人からは、稲葉ファームの野菜は後味や喉越し、みずみずしさが違うねと言ってもらいます。カボチャなんかは、蒸している時から香りの良さが断然違うんですよ。皆さんからそんな声を聞くと、自分のやってきた農業は間違っていなかったのかなと感じます。時間はかかったけれど、自分らしい作物を作れるようになってきた気がしますね」と稲葉さんは頷きます。

作物が本来持っている旨みを、ぎっしりと抱きしめたじゃがいもたち。今年も稲葉さんの畑でスクスクと育っています。
「大地のアイス」を通して、ぜひそのパワーを感じてください。

(取材・文/ ライター 長谷川みちる)

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